最高裁判所第二小法廷 昭和54年(オ)740号 判決 1980年7月18日
上告人
戸梶勝
右訴訟代理人
瀧俊雄
被上告人
神戸鉄工中小企業協同組合
右代表者
芝野榮治
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人瀧俊雄の上告理由第一点及び第二点について
記録に顕われた本件訴訟の経過に徴し、原判決に所論の違法があるとは認められない。論旨は、採用することができない。
同第三点一及び二について
中小企業等協同組合法に基づく事業協同組合が総会の議決により代表理事の報酬限度額を定めた場合には、代表理事が当該組合の事務分掌上は使用人の担当すべき事務に従事したときであつても、特段の事情のない限り、組合が総会の議決した限度額を超えて代表理事に報酬を支払うことは、その支払の名目を問わず、許されないものと解するのが相当である。結論においてこれと同趣旨の原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
同第三点三について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(宮崎梧一 栗本一夫 木下忠良 塚本重頼 鹽野宜慶)
上告代理人瀧俊雄の上告理由
第一点、第二点<省略>
第三点 不当利得を容認した原判決には判断遺脱、理由不備の違法があり、また民法第七〇三条その他の法令の解釈適用を誤り、あるいは事実認定の証拠判断に経験則違背が認められるなどそれらの違法が判決に影響を及ぼしていること明らかである。
一、原判決は
(一) 上告人が被上告人から支給を受けた昭和四九年度の給与合計四六三万六、八〇〇円のうち理事長報酬限度額超過部分の二六三万六、八〇〇円と昭和五〇年度の四月より八月までの受給与額二四四万三、七〇〇円のうち理事長報酬按分限度額超過部分の一四〇万二、〇三四円はともに上告人が雇人の職務を兼務している故をもつて右報酬限度額を超える給与の支払を受けたことにつき組合総会の承認があつたとの事実を認めるに足る証拠がないから違法な支出といわざるをえない。
(二) してみると上告人が支給を受けた右二六三万六、八〇〇円および一四〇万二、〇三四円は被上告人との関係で少くとも不当利得になるものといわざるをえない。
と判示し不当利得の成立を認めながらその法律要件たる個々の事実についての判断を示さずその理由説示らしきものも一切ない。上告人が兼務した雇人の職務上の労働の対価として右報酬限度額超過支出分が相当性を有するや否やなど利得額や損失額についての具体的判断等なく、あたかも違法支出の超過額即利得額としてその返還を認める原判決には審理不尽、判断遺脱、理由不備の違法が存することは明白である。
二、また原判決は被上告人組合の理事長の報酬限度額の法的性格とその総会承認との関係につき
(一) 右理事長の報酬限度額なるものは一たん総会決議で定められた以上、理事会はその限度額を超えて理事長に報酬を支給することができず、その場合支給の名目が理事長報酬としてであれ、雇人給料としてであれ結論を異にせずと解するのが相当であり、そのことは上告人が代表理事としての固有の職務の外に雇人の、職務をも兼務していたとしても同様である。けだし総会は理事長の職にある一個の人間の組合に対する全貢献を評価したうえその報酬限度額を定めたものと解するのが相当であるからである。
(二) もつとも理事会においてその後総会が定めた報酬限度額を超える給与を理事長に与える旨決議し、その決議が執行された場合でも後日総会がその趣旨の決算案を可決するなどして事後承認したときは報酬限度額超過の給与も適法になるものと解すべきであるが本件の場合総会がかかる事後承認をしたとの事実も認め難い。
と判示する。
しかしながら組合理事長の報酬限度額についての原判決の右解釈は首肯できない。本来組合理事長の報酬なるものは理事長が法人たる組合の代表機関としての役務の提供をしたことに対する対価すなわち組合の機関としての理事長固有の職務上の労働対価を指し、たとえば理事長が兼務する雇人の職務上の労働に対する対価まで包含するものではないと解すべきだからである。このことは中小企業等協同組合法第四二条により準用される商法の規定の中に取締役の報酬に関する商法二六九条の規定が準用されてないことからも容易に理解しうるところである。したがつて上告人が理事長固有の職務の外に兼務した事務職員としての職務上の労働対価たる給与についてはなんらの法的規制もなく、理事会の決定に委ねられ、その予算の執行、決算報告については理事長固有の職務に対する労働対価たる理事長の報酬限度額のごとく特に組合総会の事後承認等を要しないものと解されるのである。<以下、省略>